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非公開: ワールドラグビー「競技に関する規定」

SCHEDULE 3a

治療目的使用の適用措置に関する国際基準

3.2 「治療目的使用の適用措置に関する国際基準」の用語を定義する:

「治療(Therapeutic)」とは、薬物又は医学的方法により病状に対し、処置を行うこと若しくはその処置に関係すること、又は療法を提供若しくは援助することをいう。

「TUE」とは、治療目的使用の適用措置をいう。

「ATUE」とは、「治療目的使用適用措置国際基準(TUE)」の8.0 項に記載するTUE の「略式申請手続き」をいう。

「TUEC」とは、治療目的使用の適用措置委員会をいう。同委員会は、関連のアンチ・ドーピング機関が設ける小委員会である。

「WADA TUEC」とは、WADA 治療目的使用の適用措置委員会をいう。同委員会は、WADA が設ける小委員会である。

第2 部 - 治療目的使用の適用措置の付与に関する基準
(Part Two: Standards for Granting Therapeutic Use Exemptions)

4.0 治療目的使用の適用措置の付与に関する基準

治療目的使用の適用措置(TUE)は、禁止リストに盛り込まれた禁止物質又は禁止方法の使用が競技者に付与されることである。TUE の申請については、治療目的使用の適用措置委員会(TUEC)による審査を受けることになる。TUEC は、アンチ・ドーピング機関が任命する。適用措置が付与されるのは、下記の基準が厳格に満たされている場合のみに限られる。
[解説 - 本件基準の適用対象となるのは、規程により定義された競技者であって、規程の拘束を受ける者全員である。即ち、障害のある競技者を含め、全ての競技者に対して適用される。この基準の適用は、個人の事情に応じて左右される。例えば、障害のある競技者にとって適切な適用措置は、他の競技者の場合には適用されないケースがある。]

4.1 競技大会に参加する21 日前までにTUE の申請を競技者が行っていること。

4.2 急性又は慢性の病状を治療する過程において禁止物質又は禁止方法を用いなかった場合に、当該競技者が深刻な障害を受けること。

4.3 当該禁止物質又は禁止方法を治療目的で使用することにより、競技能力の強化(ただし、正当な病状治療を経て健康状態に回復することから予想されるものは除く。)が生じないこと。禁止物質又は禁止方法を用いて「正常下限」レベルの内因性ホルモンを増加させることは、妥当な治療措置であるとは見なされない。

4.4 当該禁止物質又は禁止方法を使用する以外に、適正な治療法が存在しないこと。

4.5 当該禁止物質又は禁止方法を使用の必要性は、禁止リスト記載物質の治療目的以外で全面的あるいは一部使用したことの継続となっていないこと。

4.6 下記の状態が発生した場合に、措置を付与した機関によってTUE が取り消されること。

a. 当該適用措置を付与したアンチ・ドーピング機関が課した要件又は条件を競技者が速やかに遵守しない場合

b. TUE の有効期限が満了した場合

c. アンチ・ドーピング機関によってTUE が撤回される旨、競技者に対して通知が行われた場合

[解説 - TUE にはそれぞれ有効期限があり、その有効期限は治療目的使用の適用措置委員会によって決定される。場合によっては、TUE が満了又は撤回されても、TUE の対象となる禁止物質が競技者の体内に依然として存在しているケースがある。このような場合、当該アンチ・ドーピング機関は、違反が疑われる分析結果の初期確認作業において、分析結果がTUE の満了又は撤回と一致するか否かを判断しなければならない。]

4.7 TUE の申請が事後承認であると見なされないこと。ただし、下記いずれかの条件が満たされている場合は、この限りではない。

a. 緊急治療又は急性病状の治療が必要である場合

b. 不測の事態につき、ドーピング・コントロールに先立って申請を請求する時間的余裕がなかった場合、
又は、TUEC がドーピング・コントロールに先立って申請内容を検討する時間的余裕がなかった場合

[解説 - 緊急疾患又は急性の病状であってTUE の申請に先立って禁止物質又は禁止方法の使用を必要とするケースは、稀である。同様に、競技の開催が差し迫っていることを理由としてTUE の申請を短期間で審査しなければならないという状況も稀である。ただし、TUE を付与するアンチ・ドーピング機関は、部内の手続を整備して上記の状況に対応できるようにしなければならない。]

5.0 情報の守秘

5.1 申請を行う者は、TUEC の構成員、必要に応じて他の外部の医療関係者若しくは科学分野有識者、又はTUEの運用、審査若しくは上訴に関与する所要の職員全員に対して当該申請に関する全情報を伝達することについて、承諾書を提出しなければならない。

外部の独立専門家の支援が必要になる場合、その当該競技者の治療情報の中で競技者を特定しない形で、申請内容の詳細情報が全て提供されるものとする。又、申請を行う者は、TUEC の決定内容が規程の定めに基づいて他のアンチ・ドーピング機関に伝達されることについて、書面で同意を与えなければならない。

5.2 TUEC の構成員及びアンチ・ドーピング機関の事務局は、厳格な守秘義務をもってその活動を行うこととする。TUEC の全構成員及び関連職員については、その全員が機密保持契約に署名を付すものとする。これらの者は、特に下記の情報について守秘義務を負うものとする。

a. 競技者本人及び競技者の治療に関与する医師から提供された医学的な情報及びデータ

b. 当該プロセスに関与する医師の氏名など、申請に関する詳細事項

競技者本人に代わって医療情報を取得できるというTUEC又はWADA TUECの権利を競技者本人が無効にしたいと考えている場合、当該競技者は、自分の担当医に対してその旨を書面で通知しなければならない。この判断の結果、当該競技者は、TUE を受けられず、既存のTUE も更新できなくなる。

6.0 治療目的使用の適用措置委員会(TUEC)

TUEC の構成及び活動は、下記の指針に基づくものとする。

6.1 TUEC には、競技者の治療及び処置に経験を有し、かつ臨床医学、スポーツ医学及び運動医学の正しい知識を有する医師を少なくとも3 名含めなければならない。一定水準の判断の独立性を確保するため、TUECの構成員の多くは、アンチ・ドーピング機関において、いかなる公的責任(any official responsibility)を持ってはならない。TUEC の構成員は、その全員が利益相反同意書に署名を付すものとする。障害のある競技者が関係する事案においては、TUEC の構成員のうち少なくとも1 名は、障害のある競技者の治療及び処置に経験を有する者でなければならない。

6.2 TUEC は、適切と判断した場合、TUE の申請に関する諸事情を審査する際に医学的意見又は科学的意見を求めることができる。

6.3 WADA TUEC は、第6.1 項に定める基準に基づいて構成されるものとする。WADA TUEC の設置目的は、アンチ・ドーピング機関によって付与されたTUE の決定をその職権により審査することにある。規程第4.4 項の定めに従い、アンチ・ドーピング機関によってTUE が却下された競技者から求めがある場合、WADA TUEC は、当該決定を審査して、その決定を覆すことができる。

7.0 治療目的使用の適用措置(TUE)の申請手続

7.1 TUE の検討が行われるのは、不備のない申請書を受理した後に限られるものとし、当該申請書には関連書類(付録1「TUE の申請書」を参照)が全て含まれていなければならない。申請手続の取扱は、医学的守秘義務の原理原則に厳格に基づいて行わなければならない。

7.2 付録1 に示されたTUE の申請書については、情報の追加的提供を盛り込む形でアンチ・ドーピング機関が修正できるが、セクション又は項目は削除しないものとする。

7.3 TUE の申請書は、アンチ・ドーピング機関によって他言語に翻訳できるが、申請書の英語表記又はフランス語表記は残さなければならない。

7.4 競技者は、複数のアンチ・ドーピング機関に対してTUE の申請を行ってはならない。申請を行う場合には、競技者の競技に加えて、必要に応じて種目及びポジションを明記しなければならない。

7.5 申請を行う場合には、現在・過去における禁止物質・禁止方法の使用許可申請、当該申請の提出先となった機関、及び当該機関の決定内容を記載しなければならない。

7.6 申請を行う場合には、関連の病歴を包括的に盛り込むとともに、申請に関係する診察所見、検査結果及び画像所見を全て含めなければならない。

7.7 上記以外に関連した調査、診察・検査、画像検査について、アンチ・ドーピング機関のTUEC から求めがあった場合、申請者本人又は申請者が所属する国内スポーツ団体の費用負担で上記の調査等を実施する。

7.8 申請を行う場合には、相応の資格を有する医師が記載した証明書を含めなければならず、この証明書では、競技者の治療における当該禁止物質又は禁止方法の必要性を証明するとともに、使用の認められている代替薬剤を治療に用いることができない理由、又は用いることができなかった理由を記載しなければならない。

7.9 当該禁止物質又は禁止方法の投与量、投与頻度、投与経路又は投与期間は、具体的に明記しなければならない。

7.10 TUEC の決定は、全ての関連資料を受領後30 日以内に完成させるべきであり、当該アンチ・ドーピング機関から競技者本人に対して書面で伝達されるものとする。アンチ・ドーピング機関の登録検査対象リストに記載された競技者に対してTUE が付与された場合、TUE の有効期間及び関連条件に関する情報が競技者及びWADA に対して速やかに伝達されるものとする。

7.11 a. 規程第4.4 項の定めに従い競技者から審査請求を受けたとき、WADA TUEC は、アンチ・ドーピング機関が付与したTUE に関する決定を規程第4.4 項に従って覆すことができる。この際、当該競技者は、アンチ・ドーピング機関に対して当初提出したのと同じ形式で、WADA TUEC に対してTUEに関する全情報を申請手数料も添えて提出する。審査手続が終了するまで、当初の決定が引き続き効力を有する。この手続は、WADA が上記の情報を受けてから30 日を超えないものとする。

b WADA は、審査を随時行うことができる。WADA TUEC は、30 日以内に審査を終了させるものとする。

7.12 TUE の付与に関する決定が審査で覆された場合、当該破棄は適用されないものとし、TUE が付与されていた期間における当該競技者の結果は失効しないものとする。又、破棄の効力は、競技者に対する決定の通知から14 日以内に発生するものとする。

8.0 治療目的使用の適用措置の略式申請(ATUE)手続

8.1 禁止物質リストに含まれる物質の中には、競技者が頻繁に遭遇する病状の処置に使用されるものがあることを認める。このような場合、第4 項及び第7 項にいう標準申請は不要である。そのため、TUE の略式申請手続が設けられている。

8.2 禁止物質又は禁止方法のうち略式申請手続で認められるものとしては、厳格に下記のものに限られる。具体的には、吸入ベータ2 作用剤(フォルモテロール、サルブタモール、サルメテロール及びテルブタリン)並びに局所使用による糖質コルチコイドである。

8.3 上記物質のいずれかを用いるには、競技者は、治療の必要性を立証する医療情報提供書(略式TUE申請書)をアンチ・ドーピング機関に対して提出するものとする。添付資料2に記載されている如く、当該医療情報提供書(略式TUE 申請書)には、診断、薬物名称、使用量、使用経路及び治療期間を記載するものとする。

当該診断内容を立証するために検査が行われた場合には、その検査内容を含むものとする(検査結果の現物や詳細事項の必要はない)。

8.4 略式申請手続には、下記の要素が含まれる。
a. 略式申請手続の対象となる禁止物質を使用する許可については、アンチ・ドーピング機関が不備のない申請書を受け取った際に発効する。不備な申請書は、申請を行った者に対して差し戻される。

b 不備のない申請書を受領しだい、アンチ・ドーピング機関は、迅速に当該競技者に対して通知するものとする。当該競技者のIF, NF 及びNADO へも適切に通知するものとする。アンチ・ドーピング機関は、国際的レベルの競技者から申請を受けた時にのみ、WADA に通知するものとする。

c TUE の通知は、事後承認であると見なされない。ただし、下記の場合はこの限りではない。
- 緊急治療又は急性病状の治療が必要である場合
- 不測の事態につき、ドーピング・コントロールに先立って申請を行う時間的余裕がなかった場合、又はTUEC がドーピング・コントロールに先立って申請書を受け取る時間的余裕がなかった場合

8.5 a TUEC 又はWADA TUEC による審査は、TUE の有効期間中であれば随時着手することができる。

b ATUEの却下について、その後、競技者が再審査を求める場合、WADA のTUEC は、必要と考えられる追加の医学情報を、当該競技者に要求できる権利を有し、その費用は当該競技者が負担するものとする。

8.6 TUE は、TUEC 又はWADA TUEC が随時これを取り消すことができる。競技者本人、競技者が所属するIF 及び関連アンチ・ドーピング機関は、全て速やかに通知を受けるものとする。

8.7 上記の取消は、競技者に対する決定の通知後即座に発効するものとする。その場合でも、競技者は、第7項に基づいてTUE の申請を行うことができる。

9.0 クリアリングハウス

9.1 アンチ・ドーピング機関は、第7 項に基づくTUE 及び参考書類を全てWADA に対して提供する義務を負う。

9.2 ATUEに関して、アンチ・ドーピング機関は、国際的レベルの競技者より提出された第8.4 項に基づく医学的申請書類をWADA に提供するものとする。

9.3 クリアリングハウスは、医学的情報を全て厳秘扱いにする旨を保証する。